貴銃士ストーリー:タバティエール

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第1話:本来の姿

シャスポーはぁ……。
まったく、なんでわざわざナップサックなんてものを
自分で、それも手縫いで作らなくちゃいけないんた。
シャスポー売ってるものを買えば済むことだし、
貴銃士が裁縫を習ってなんの意味があるんだか、
理解に苦しむよ。
タバティエールまあまあ、そう言うなって。
軍人なら制服を軽く繕ったりボタンを付け直したり、
それくらいの針仕事はこなせるもんだろ?
タバティエール任務にミシンを抱えていくわけにはいかないしな。
それに、〇〇ちゃんの役に立つかもしれないぞ。
シャスポーマスターの役に……?
タバティエールああ。ほら、ケンタッキーなんかは、お手製のものを
〇〇ちゃんにプレゼントしたりしてるだろ。
器用なお前なら、そういうこともできるんじゃないか?
シャスポーふん。当然だよ。
僕なら彼らより、ずっと洗練された素敵な品を作って、
〇〇に贈れるに決まってる。
シャスポーその練習だと思えば、まぁ……
まったく無駄な授業というわけでもなさそうだ。
タバティエール……おっと。噂をすればってやつだな。
よっ、〇〇ちゃん。
主人公【なんだか盛り上がってたね】
【なんの話?】
シャスポー授業について、ちょっと話をしてたんだ。
君は移動教室の途中かな?
シャスポーねぇ、もしよかったら、
今日のお昼を君と一緒に食べてもいいかな。
食堂でもいいし、中庭で花を見ながらっていうのも───
恭遠〇〇君!
恭遠ここにいたのか。
すまないが、急ぎの任務が入った。
貴銃士を連れて、すぐに現地に向かってくれないだろうか。
主人公【わかりました】
【貴銃士の人選はどうしますか?】
恭遠そうだな……。
シャスポー、タバティエール。
君たちに頼んでも構わないかい?
シャスポーああ、もちろん。
すぐに準備をするよ。
タバティエール…………。
シャスポーおい、タバティエール。
何をぼーっとしている。
タバティエールいや……別に、ついて行く分には構わねぇが……。
絶対高貴に目覚めてない俺じゃあ、
何かあっても、盾になるくらいしかできないぜ?
タバティエール戦力が欲しいなら、他の貴銃士に頼んだ方がいい。
それが〇〇ちゃんのためにもなるはずだ。
タバティエール……じゃあな。
シャスポー、〇〇ちゃん、気をつけてな。
シャスポーは……?
シャスポータバティエール……!
あいつには、貴銃士としての誇りはないのか?
絶対高貴に目覚める努力もせずに、任務すら放棄するなんて!
シャスポーふんっ!
どうせ、戦場で役に立たずに恥を晒すのが嫌なんだろう。
所詮は第二線級の銃だしね。
シャスポー恭遠教官、他に出られそうな貴銃士は?
恭遠うーん……マークスかライク・ツーに声をかけてみるか。

この出来事からしばらく……。
士官学校では、フランス出身の生徒有志による、
フランスの貴銃士の歓迎会が開かれていた。

生徒1貴銃士の皆さん、フィルクレヴァート士官学校へようこそ!
Santé!
一同Santé!!
シャルルヴィルこんなに盛大な会を生徒主催で開けるなんて、すごいね。
大歓迎でちょっとくすぐったい感じがするけど、
ボクたちが受け入れられてるんだって伝わってきて嬉しいな。
グラースさーて……。
可愛い小鳥たちのさえずりを楽しんでくるとするか。
シャスポーおい、グラース。
フランスの恥になるような真似はするなよ。
グラースハッ!
この僕が何をしたって恥にはならないさ。
余計なお世話だぜ、シャスポー。
タバティエール俺は適当に食事でもつまむとするかねぇ。
生徒1あのっ……!
皆さんとご一緒しても構いませんか?
タバティエールああ……そのための会だろうし、
遠慮はいらないんじゃないか?
な、シャスポー。
シャスポーもちろん。
素敵な会を開いてくれたことに感謝するよ。
せっかくの機会だし、交流を深めよう。
生徒2もしよろしければ、
皆さんの士官学校での暮らしについてお聞かせください!
どんな授業をされているのかや、仲のいい方についてなど……!
グラースそうだね……僕としては、
貴銃士よりも可憐で一生懸命な君の方に興味があるよ。
生徒3シャルルヴィル様はスイーツがお好きだと伺いました!
自分も甘いものが好きなので、
士官学校付近のお店について情報交換したいです!
シャルルヴィルそうなんだ!
きっと君の方が詳しいだろうから、
おすすめを教えてもらえると嬉しいな。

生徒たちと貴銃士たちが和気あいあいと語り合う中、
タバティエールがそっと、
その輪から抜け出ようとしていた。

タバティエール…………。
主人公【タバティエール、どこへ?】
【どうかした?】
タバティエール……〇〇ちゃん。
悪いが、俺はちょっと外すよ。
野暮用を思い出しちまってな。
シャスポーはぁ……?
用事なら先に済ませておけばよかっただろう。
タバティエールいやぁ、悪い悪い。
うっかりしてたぜ。
シャスポーとにかく、早く戻ってこいよ。
タバティエールへいへい、了解。

───30分後。

シャスポーあれ……?
ねぇ、〇〇。
タバティエールがいないみたいだけど……。
主人公【まだ戻っていない】
【何かあったのかな】
シャスポーまったく、あいつはどこをフラフラしてるんだ……!
シャスポーああ、心配いらないよ、〇〇。
僕がすぐに探して、連れ戻してくるから。
主人公【シャスポーは主役だからここにいて】
【俺が探してくる】
シャスポーえっ……でも、君の手を煩わせたくはないな。
5分くらいなら僕が抜けても───
シャルルヴィルおーい、シャスポー。おいでよ。
みんながボクたちの話を聞きたくて、
待ちくたびれてるよ!
生徒1ぜひお願いします!
生徒2お2人のご活躍や、絶対高貴と絶対非道の力についても、
色々とお話を伺いたいですっ!

〇〇は、生徒たちに囲まれたシャスポーに
手を振って合図をし、タバティエールを探すため会場を出た。


貴銃士クラスの教室や各階の廊下を見て回るが、
どこにもタバティエールの姿はない。

校舎を出た〇〇が、裏庭を覗いてみると……。

タバティエールお、〇〇ちゃん。
もしかして、俺を探しに来てくれたのかい?
悪いな。
主人公【こんなところで何を?】
【野暮用は済んだ?】
タバティエールいや……ちょっと腹が痛くてな。
だけど、もう大丈夫だ。会場に戻るとするか。

歩き出したタバティエールだったが、
〇〇は彼からかすかに漂う匂いに気づいた。

主人公【……煙草?】
タバティエールおっと……バレたか。さすがマスター。
〇〇ちゃんは誤魔化せないな。
タバティエール…………。
タバティエール……実を言うと、ああいう雰囲気はどうにも苦手でね。
あの3人がいれば主役は十分だろうから、
ここで一休みしてたってわけだ。
タバティエールああ、別にパーティーやら食事会やらに、
ぼーっと参加するくらいなら平気だぜ。
でも、主役として、キラキラした目で見つめられるのはなぁ。
タバティエールほら、俺は銃の来歴からして、
第一線で活躍するんじゃなくて、後方支援向きだろ?
前に出るのは性に合わねぇんだわ。
タバティエールけど、革命戦争でタバティエール銃が活躍したからって、
フランスでは特に、俺まで英雄扱いだろ?
タバティエールがっかりさせちまうのも悪いし、
あっちではそれっぽく振舞ってたんだが……。
タバティエール俺にとっちゃあ、
革命戦争のタバティエールの名前が重いもんで、参るぜ。
タバティエール……ドライゼは凄いよ。
レジスタンスのドライゼを尊敬して、
その背中に追いつこうと頑張ってる。
タバティエールそして実際、ドイツ支部の特別司令官として、
多くの兵を率いて活躍してるんだもんな。
タバティエール俺は……あんな風にはなれない。
絶対高貴も使えないし、肉壁になるのが関の山さ。
そもそも、戦うこと自体が───……。
タバティエールはは……。
情けないこと言ってすまねぇな、〇〇ちゃん。
タバティエールフランスでは色々あったから、
俺がなんとかしないとって思ってたんだが……
イギリスに来たら、なんだか気が抜けちまったみたいだ。
タバティエールでも……これが本来の俺なんだよ。
がっかりさせてごめんな、〇〇ちゃん。

第2話:凄腕のシェフ

───休日の士官学校にて。

シャルルヴィルあっ、〇〇!
ちょうどよかった〜! 君のこと探してたんだ。
主人公【俺に何か用事が?】
【どうして?】
シャルルヴィルお昼ごはんはまだだよね?
ボクと一緒に食堂に行こう♪
そしたらわかるから!
シャルルヴィルほら、早く早く〜!

シャルルヴィルに半ば引っ張られながら、
〇〇が食堂へ向かうと、
休日だというのになぜかいつも以上に賑わっている。

生徒1お、美味しい……!
すごく美味しい……!!
生徒2なんだ……!?
一流レストランとコラボした特別メニューか!?
生徒3高級ホテルの料理人とかを新しく雇ったのかな?
でも、今日限定かもしれないし……俺、おかわり!!
シャルルヴィルうわぁ、すごい混雑……!
噂になるのが早すぎるよ〜!
主人公【これは一体……!?】
【イベントか何か……?】
シャルルヴィルえっと、それはね……。
タバティエール……おっ、シャルルくん。
エーデルちゃんを連れて来てくれてありがとな。
特別メニューも、さっきちょうど出来上がったところだ。
シャルルヴィルやった〜!
Merci、タバティさん♪
タバティエール今日は特別に、俺がシェフをやらせてもらってるんだ。
学食のメニューも、今日だけのオリジナルさ!
タバティエールしっかし……こんな騒ぎになるとは思わなかったぜ。
美味そうに食ってもらえるのは嬉しいが、
みんな、ちょっと大げさに褒めすぎじゃないか?
シャルルヴィルううん、そんなことないよ。
タバティさんが作る料理もスイーツも、どれも美味しいし!
タバティエールありがとな。
それじゃ、座って待っててくれ。
シャルルヴィルOui♪
シャルルヴィル今日はね、タバティさんに
スイーツを作ってもらう約束してたんだ〜。
シャルルヴィルメニューはお任せだから、
何が出てくるのかボクも楽しみ!
ジョージんん〜!
なんかウマそうな匂いがするっ!
シャルルヴィルあ、ジョージ!
ちょうどいいところに来たね。
一緒にタバティさんのスイーツ食べない?
ジョージWow! いいのか!?
すっげー楽しみだ!
オレ、匂いだけでもうお腹ペコペコ!
タバディエールお2人さん、お待たせ……って、
ジョージくんも参戦か!
取り皿を多めに持ってきといてよかったぜ。
タバディエール本日のスペシャルメニュー、
苺のシャルロット・リュスだ。
シャルルヴィルわぁ〜! おいしそう!
主人公【綺麗!】
【可愛い!】
ジョージOh! Beautiful……!
苺がたっくさんで美味そうだなー!
なあなあ、食べていいか!?
タバディエールもちろんだ。
紅茶とコーヒーも用意してあるぞ。
Bon appétit!
シャルルヴィルMerci!
シャルルヴィルん〜! 美味しい〜っ! さっすがタバティさん!
きっと、リリエンフェルト家のパティシエも認める美味しさだよ!
主人公【プロだ……!】
【お店が開けそう!】
ジョージ口の中がHappyで溢れるぜ……!
タバディエールははっ、ありがとな。
そんなに美味そうに食べてもらえるなら、
作った甲斐があったってもんだ。
シャルルヴィルお礼を言うのはボクたちの方だよ……!
このビスキュイ・ア・ラ・キュイエールとか、
香りがすごくよくて、苺と最高にマッチしてる!
タバティエールおっ、わかるかい?
アーモンドプードルが入ってるんだよ。
ジョージプードル……? 犬……っ!?
タバティエールははっ、違う違う。
アーモンドプードルってのは、アーモンドの粉末さ。
香りや食感が良くなるし、コクも増すんだ。
ジョージふーん……?
よくわかんねーけど、最高にウマいことはわかるぜ!
ジョージ……っていうか、シャルルって
タバティエールとも仲が良かったんだな!
オレ以外にも仲良しがいてよかったぜ〜☆
シャルルヴィルちょっ……!
ボクにだっ て、ちゃんと仲のいい相手はいるよ。
ほら……〇〇とか、スフィーとか……!
ジョージHAHAHA! わりーわりー!
シャルルヴィル……タバティさんとは、
フランスにいた頃から少し交流があったしね。

シャルルヴィルは〇〇を手招きすると、
小さな声で話し始める。

シャルルヴィルあのね、〇〇。
これは内緒にしててほしいんだけど……。
シャルルヴィルタバティさんもボクと同じで、
クレマン・ド・リリエンフェルトのコレクションだったんだ。
主人公【そうなんだ!?】
【銃時代からの付き合いなんだ】
シャルルヴィルふふっ、実はね。
ジョージ……ん? シャルル、何か言った?
シャルルヴィルううん、なんでもない。
それより、ジョージ。
口の端にクリームが付いてるよ。
ジョージえっ、ここか!?
タバディエール反対だぜ、ジョージくん。
シャルルヴィルあははっ、クリームが髭みたいになってるよ、ジョージ。
ジョージええ〜っ!?

シャルルヴィルふぅ……なんだかフランスにいた頃より、
スイーツが美味しく感じるよ。
シャルルヴィルタバティさんもなんだか活き活きしてるし、
明るい気持ちがスイーツにもこもったのかな?
タバティエールははっ、褒めてくれてありがとな、シャルルくん。
そうは言っても……俺の料理は趣味だしなぁ。
リリエンフェルト家の超一流パティシエには遠く及ばないよ。
タバディエールそれでも、特別美味しく感じるってことは……
シャルルくん自身の気持ちの部分もあるんじゃないか?
シャルルヴィルボクの気持ち……?
タバディエールああ。
あの頃より今のシャルルくんの方が、
ずっと明るくていい表情をしてるぜ?
シャルルヴィル……うん。
今は、〇〇やジョージ、スフィー……
みんなと自由に過ごせて、すごく楽しい。
シャルルヴィルタバティさんの言う通り、気持ちの面もあるかも。
でも、タバティさんの料理が美味しいのも本当だよ!
ジョージはぁ〜! ウマかった〜!
でも、甘いもん食べたら、
今度はしょっぱいもんが欲しくなったなー。
ジョージ……おっ! それ、残すのか?
じゃあオレがもらうなっ!
生徒4ええっ!?
これは、最後の一口にとワザと───
ジョージもーらいっと!
生徒4ああっ! 僕のポテトがぁ〜!
ジョージWow! Delicious!
この付け合わせもぱりぱりで美味しいぜ!
シャルル! 〇〇! 食ってみろよ!
シャルルヴィルちょっとジョージ!
人のものを勝手に食べちゃダメでしょ!?
タバディエールジョージくん、ローストビーフを仕込んでるから、
ちょっと待っててくれよ。
ジョージマジで!?
うおおおお、すっげー楽しみっ!!
生徒4あのっ、僕もいただいていいですか!?
生徒2わ、私もっ!!
タバティエールおう。たくさん作ってるから、みんなで食べてくれ。
生徒たちやったぁ!!
タバティエールははっ……料理ってのはいいもんだよなぁ。
こうやって純粋に、人を笑顔にできる。
タバティエール銃───特に、俺みたいな軍用銃ってのは……
撃って、傷つけることでしか、役に立てない。
タバティエール笑顔に囲まれてる今の方が、血が流れる戦場よりずっといい。
こっちの方が、俺は役に立ててる気がするしな。
タバティエールそう思うと……
どうにも、任務に出る気になれないんだ。
タバティエール俺より強くてやる気がある貴銃士なんて、
〇〇ちゃんの周りにはいっぱいいるしなぁ。
だから……俺は、こんな貴銃士でも構わないかい?
主人公【いいと思う】
【タバティエールがそうしたいなら】
タバティエール……ありがとな、〇〇ちゃん。

第3話:深夜の邂逅

───休日の午後、街で買い物をしていた
〇〇、タバティエール、グラーズだったが……。

近郊の森でアウトレイジャーが出没したという情報を受け、
現場へと急行することになった。

グラース───心銃!
アウトレイジャーグァアアア……ッ!!
グラースどうだ、〇〇。
一発で仕留めてやったぞ。
グラース僕にかかれば、アウトレイジャー数体程度こんなもんだ。
お前の傷も、たいして悪化してないだろ?
主人公【ありがとう】
【助かった】
グラースおう。大いに感謝しろよ?
タバティエール…………。
グラースなんだよ、タバティエール。変な顔して。
邪魔者は片付いたし、ぼーっとしてねぇで買い物に戻るぞ。
タバティエールいや……すごいもんだなって感心してたんだ。
グラースはぁ……? 今頃僕のすごさに気づいたのか?
それに、たった2体くらい、
絶対非道か絶対高貴の力があれば、楽勝だろ。
タバティエールそういうもんかねぇ。
グラースま、他の貴銃士は、
僕ほどあっさり奴らを倒せないかもしれないけどな。ははっ!
グラースああ……そういえば、
お前はまだ、まともに戦えないんだったっけ。
タバティエールまぁな。
絶対高貴には相変わらず目覚められてないもんで。
グラースふぅん……?
つーか、お前も僕と同じで
金属薬莢の弾丸が使えるんじゃなかったか?
タバティエールん……?
そうだな、フルメタルだったり、一部だけだったりするが。
グラース後装式で、金属薬莢の弾丸も使える……。
年式的にはちょっと古いけど、
お前も、『こっち』側なんじゃねーの?
タバティエール…………。
いや……。
タバティエール……俺はどっちみち、大した戦力にはならねぇだろうし、
戦いは得意な奴に任せるよ。
タバティエールそれに……。
グラースそれに、なんだ?
タバティエールなんでもないさ。
ほら、買い物に戻ろう。
タバティエール(できることなら、俺はもう、
撃ちたくないもんだ……)
タバティエール(……人を……)

───その日の深夜。

タバティエールはぁ……。
タバティエール(こんな夜更けに目が覚めちまった……参ったな。
寝つけそうにないし、何か飲んでくるとするか)
タバティエール……ん?
タバティエールなんだ? 物音が……。
キッチンの方からか……?
タバティエール士官学校に泥棒に入ろうって奴はいないと思うが……
誰か盗み食いでもしてるのかねぇ。
タバティエー ルやれやれ……とにかく、見に行ってみるか。
タバティエールおーい。
誰かいるのか───

キッチンに足を踏み入れたタバティエールが見たのは、
憤怒の表情を浮かべつつ、泡だて器でボウルの中身を
一心にかき回すジーグブルートの姿だった。

ジーグブルート……!?
なんだてめぇ!
タバティエールうおっ……!?
こんな時間に何してんだ……!?
ジーグブルート見りゃわかんだろうが。メレンゲ作ってんだよ!

───それから10分後。
タバティエールは、ジーグブルートのお菓子作りを見学していた。

タバティエールへぇ……器用なもんだな。
無駄がない動きで、見てて気持ちいいくらいだ。
ジーグブルートハッ、当ったり前だろ。
菓子作りってのは正確で細けぇ作業が大事だからな、
俺みたいな成功作様にかかればチョロいもんよ。
タバティエールしかし、なんでこんな時間に……?
ジーグブルート……別に。深い意味はねぇ。
集中して無心になれりゃ、気分転換になる。
それだけのことだ。
タバティエールああ……なんだかわかる気がするな。
俺も料理やお菓子作りをするからさ。
ジーグブルートそうかよ。
タバティエールところで、何を作ってるんだ?
さっきオーブンに生地を入れていたからケーキかと思ったんだが、
果物が見当たらないな。
ジーグブルート今作ってんのはビーネンシュティッヒだ。
果物も挟むアレンジをしてもいいが、
オーソドックスなクリームだけのやつにする。
タバティエールビーネンシュティッヒ……か。
名前は聞いたことがあるが、食べたことはないな。
ジーグブルート完成したら食わせてやるよ。
素朴な分ごまかしがきかねぇが、
この俺が作るんだから味の心配なんざ無駄だな。
タバティエールそいつは楽しみだ。
夜中に目が覚めたのはラッキーだったな。
ジーグブルート……つーかよ。お前、なんだっけ?
タバティエールおいおい、知らずにずっと話してたのか……?
タバティエール名乗りが遅れて悪かった。
俺はタバティエール。フランス生まれの後装式ライフルだ。
よろしくな。
ジーグブルートタバティエール……ドライゼの野郎と同じで、
普仏戦争で使われた銃だったな。
タバティエールおお、よく知ってるなぁ。
確かに、俺もシャスポーもドライゼも普仏戦争に投入された銃だ。
と言っても俺は、最前線には出なかったんだが。
ジーグブルートあ? なんでだよ。
タバティエール俺は……フランス陸軍初の後装式ライフルでさ。
前装式の銃を後装式に改造して作られた銃ってこともあって、
すぐあとに作られた───最初から後装式のシャスポーには劣る。
タバティエールいや、この言い方はちょっと違うか。
最初から後装式だってことだけじゃなくて、
シャスポーの完成度は、あの時代飛び抜けてた。
タバティエールだから、最前線に立てるほどの力がなかった俺は、
二線級の部隊や防御用として使われたってわけさ。
ジーグブルートへえ。
要するにてめぇは失敗作ってわけか。ハハッ!
タバティエールはは……そうだな。
ジーグブルート(……?)
タバティエール戦場の花形ってガラでもないし、
俺には後方支援がぴったりだ。
前線は、優秀なやつに任せるに限るよ。
ジーグブルート…………。
ジーグブルート……なるほどな。
ハナっから諦めて、やる気もねぇってワケだ。
タバティエール……ジーグブルート?
ジーグブルート貶されてんのに、ヘラヘラ笑いやがって……!
てめぇみたいな野郎を見ると、無性に苛ついてきやがるぜ。
タバティエール───っ。
ジーグブルートお前は───

ジーグブルートの言葉を、
焼き上がりを告げるオーブンの音が遮った。

ジーグブルート……チッ。気が削がれた。
おい、ケーキクーラーを寄越せ。
タバティエールあ……ああ。

オーブンから焼きあがった生地を取り出したジーグブルートは、
表面のアーモンドがややこんがりしすぎているのを見て、
眉間に深い皺を刻んだ。

ジーグブルートクソ……少し焦げちまった。
タバティエールそうか? 別に気にする必要はないと思うが……。
香ばしくて美味そうだぜ。
タバティエール このお菓子なら、
これくらいの焼き加減がちょうどいいんじゃないかねぇ。
香りだけでも最高だ。
ジーグブルート…………。
ジーグブルート当然だろ。
俺はてめぇみたいな負け犬とは違う、
最高の成功作様だからな。
タバティエール……そうだな。

第4話:タバティエールのとある休日

マークスレポート用紙に鉛筆、消しゴム、
ファイルと定規……よし。
買い物リストのターゲットはコンプリートした。
マークスマスター、他に必要なものはあるか?
それか、寄りたい店があれば遠慮なく言ってほしい。
俺は、マスターが行きたいところに行きたいんだ。
主人公【どこかで昼食にしようか】
【カフェに寄ってみる?】
マークスああ、それはいいな。
マスターが作るカレーに勝るものはないが、
腹を満たしたい。
マークス美味そうな店は……。

周囲を見回したマークスは、
ある一店に目をとめた。

マークスマスター、あの店を見てくれ。列ができているぞ。
何か、よっぽど美味いものでもあるのか……?
ちょっと行ってみよう!
タバティエール……おっ。
〇〇ちゃんにマークスくん。奇遇だな。
マークスタバティエール……! あんたが並んでるってことは、
やっぱりここは、相当美味いものがある店らしいな。
カレーの店……にしては、匂いがしないが。
タバティエールははっ、そりゃそうだ。
パティスリーだからな。
主人公【お気に入りのお店?】
【何か欲しいものが?】
タバティエールま、そんなとこさ。この辺りで指折りの名店だし、
シャスポーも前に「悪くない」って言ってたから……
今日も何か、あいつが気に入るもんがあることを祈るよ。
マークスん……?
食べるのは、あんたじゃないのか?
タバティエール俺も食べることになるだろうが、
ここに来たのはシャスポーのお達しさ。
タバティエール今日は湿度が高いから、ご機嫌斜めでねぇ。
主人公【手に持っている他の袋は?】
【もう調達は終わっているように見えるけど】
タバティエールああ、これかい?
実は、ここで3軒目のパティスリーなんだ。
タバティエール前にも似たようなことがあって、
看板メニューの1品だけ買って帰ったら、
気分のものじゃなかったらしくて、余計に不機嫌にさせちまった。
タバティエール今回は、どっしりしたチョコレート系から、クリーム系、
フルーツメインのあっさり系まで幅広くそろえようと思ってね。
さて、どれかで満足してくれりゃあいいんだが……。
マークスタバティエール……。
あんたは、シャスポーのためにそこまでするのか……。
マークス……あんたに比べると、俺はずっと甘かった。
あんたのその姿勢……確か、献身というやつだな。
俺も、大いに見習うべきところがある……!
マークスマスター! 今日は何が食べたい気分だ?
俺も、マスターのために美味そうなものを色々集めてくるぞ。
何がいい? 命令をくれ!
主人公【落ち着いて、マークス】
【そこまでしなくていい】
マークスでも、タバティエールはやっている。
だったら、俺だってやるべきじゃないのか?
タバティエールマークスくんは、マスターの“相棒”なんだろ?
俺は……シャスポーの従僕みたいなもんだからなぁ。
俺と同じようにする必要はないんだぜ。
マークスそうか……。
なるほど? そういうことなら、わかった。

───数時間後。
士官学校に戻ったエーデルとマークスは、
寮の談話室でタバティエールの姿を見つけた。

タバティエール……はぁ。
マークスおい、タバティエール。
何かあったのか? 顔が……濁っている。
タバティエールそれを言うなら曇ってる、じゃないかねぇ。
……いや、それより、心配してくれてありがとな。
別に、大したことじゃないんだ。
マークスそうなのか。
ケーキが美味しくなかったわけではないんだな。
タバティエールああ。ケーキはちゃんと美味いよ。
ただ……この量を処理するのは骨が折れるからさ。

タバティエールの前には、
シャスポーのために用意したはずの
ケーキが入った箱がいくつも並んでいる。

主人公【シャスポーの様子は?】
【ケーキ、受け取ってもらえなかった?】
タバティエールいや……受け取ってくれたぜ。
1つだけ、だけどな。
マークスたったの1つだけ……!?
せっかく、あんたが苦労して色々買ったのにか。

タバティエールおーい、シャスポー。
ご所望の甘いもん、適当に買って来たぜ。
食えそうなものを選んでくれ。
シャスポー………………。
タバティエールほら、ピーチのジュレ、フレジェ、
ベリーのタルト、テリーヌ・オ・ショコラ
クレームブリュレと、ミルフィーユなんかもあるぞ。
シャスポークレームブリュレだけでいい。
あとはいらないから好きにしろ。
シャスポー……余計に買いすぎだろう。
僕がそんなにたくさん食べるとでも思ったのか?
タバティエール……やれやれ……。

タバティエール……ってなわけだ。
何度も買いに出るのは手間だからって、確かに買い過ぎたよ。
生菓子は今日中に食べないと傷んじまうってのにな。
主人公【一緒に食べても構わない?】
【俺とマークスも食べていいかな】
タバティエールもちろんだ。
いやぁ、助かるぜ!
タバティエールよーし、待っててくれ。
すぐ紅茶を淹れる。

マークスんん……! 美味いな、これ。
甘いだけじゃなくて、なんだか……複雑で、深い味がするぞ。
主人公【こっちも美味しい!】
【いくらでも食べられそう】
タバティエールははっ! 君たちが喜んでくれるなら、
店をはしごしてあれこれ買った甲斐があったってもんだ。
タバティエールもしよかったら、ガレットも一緒に食べないか?
あれも今日中に食べた方がいいからねぇ。
シャスポー……おい、タバティエール。
タバティエールうおっ!
シャスポー……どうしたんだ?
シャスポー〇〇とティータイムだなんて、
僕は聞いてないぞ。
タバティエール……へっ?
シャスポーねぇ、〇〇。僕もいいかな?
休日の午後に、君とゆったりティータイムを楽しめたら、
きっと、この鬱陶しい湿気もあまり気にならなくなると思うんだ。
主人公【もちろん】
【元々、シャスポーのためのケーキだから】
シャスポーMerci、〇〇。
シャスポーあれ……? 君が食べてるのは、大通りのお店の品だね。
あそこはタルト・タタンが絶品だってのに、
タバティエールはなんでミルフィーユを選んだんだか。
シャスポーもちろん、ミルフィーユも美味しいと思うけど……
一番の名物を買わないなんて、理解に苦しむな。
シャスポー〇〇、今度の休みは、僕と2人でお店に行こう。
君もきっと、あのタルト・タタンを気に入るはずだよ。
主人公【タバティエールは頑張っていた】
【タバティエールにお礼を言った?】
シャスポーお礼……?
マークスタバティエールはあんたのために、
いろんな店を巡ってケーキを買っていた。
マスターと俺は、街でタバティエールに会ったから知っている。
マークスあんたのためにわざわざ街へ出かけて
ケーキを買い集めたんだから、
お礼を言うのは当たり前のことなんじゃないのか?
シャスポー街で会ったって……。おい、タバティエール。
〇〇に手伝わせたりはしてないだろうな?
タバティエールい、いや。
偶然会っただけだよ。
な、〇〇ちゃん?
シャスポーそう……なら、いいけど。
はぁ。また頭が痛くなってきた……。
シャスポー……〇〇、ごめんね。僕は部屋に戻るよ。
楽しい時間をありがとう。
マークス……フランスでは暗い顔をして大人しかったが、
あいつはあんな奴だったのか。
マークスタバティエール。
あんたはあいつにあんな態度を取られて、ムカつかないのか?
なんで、あいつにそこまでしてやる?
タバティエールうーん……俺はあいつの使い走りくらいでちょうどいいからな。
これでいいんだよ。
タバティエールそれに……
これくらいであいつの気が休まるなら、安いもんさ。
マークス……?

第5話:献身のわけ

タバティエールそれに……
これくらいであいつの気が休まるなら、安いもんさ
主人公【どういうこと?】
【シャスポーを気にかけるのには理由が?】
タバティエール…………。
タバティエールフランスにいた頃のことは、
〇〇ちゃんたちも知ってるだろ?
タバティエール俺は、あんなことになっちまったあいつの支えに───
味方になりたかった。
だが、会いに行ったところで、ろくに話もできず仕舞いだ。
タバティエールそして……いつだったか、顔を合わせた時、
あいつと口論になったことがある。

シャスポーしつこいぞ! もう僕に構うな!
お前には、僕のことなんて何もわからないだろう!
タバティエールわかるさ!
俺たちは普仏戦争で使われた、戦友じゃないか!
シャスポー戦友だと……!?
普仏戦争のあとで、僕が何に使われたか……
お前も知らないはずがない!
タバティエールああ……当然、知ってる。
俺も、あの惨劇の中で使われたんだからな。
お前に罪があるなら、俺にだって罪がある。
シャスポーいいや……違う!
お前の持ち主はコミューン側だったんだろ……!
シャスポー僕は……僕が、パリ市民を殺したんだ。
数え切れないくらい……たくさんの命を奪った。
この身に血が染みつくほどにな……!
シャスポー僕とお前は、違う。
犠牲者側にいたお前には……わかるはずがない。
理解したなら、いい加減僕の前から消えてくれ!
タバティエールシャスポー……。

マークスコミューン……? って、なんだ。
主人公【パリ・コミューン……】
【パリで起きた惨劇だよ】
タバティエールああ……コミューンってのは、
普仏戦争後にパリ市民が樹立した、革命自治体のことだ。
タバティエールプロイセンとの講和に反対する市民と国防臨時政府が対立して、
フランス人同士で血で血を洗うような戦いを
繰り広げていたんだ。

俺───タバティエール銃は1867年に作られ、
普仏戦争では、フランス軍の後方支援部隊の兵士に使われた。

パリ・コミューンの鎮圧でも、同じ兵士の手にあったが……
市街戦が激化する中で、彼はコミューン兵士の銃弾に倒れ───

こと切れた彼から奪われた銃は持ち主を変え、
今度はコミューン兵士の武器として、
ヴェルサイユ軍の兵士へ銃口を向けることになった。

コミューン兵士1防衛ラインを越えさせるな!
もっとだ! バリケードを強化しろ!!
コミューン兵士2くそっ……弾薬をくれ!
お前ら! 火炎瓶でもレンガでもなんでもいい!
奴らに投げて食い止めるんだ!
ヴェルサイユ軍兵士1ぐぁぁっ……!
ヴェルサイユ軍兵士2おい、女子供でも油断するな!
抵抗する者に容赦はするな、鎮圧を急げ!!
コミューン兵士1うっ……!

市街地での激しい戦闘が続き、やがてヴェルサイユ軍の
タバティエール銃を奪ったコミューン兵士もまた倒れる。

コミューンの防衛ラインが後退を続ける中、
ヴェルサイユ軍の年配の兵士が、
こと切れたコミューン兵士を静かに見下ろしていた。

ヴェルサイユ軍兵士2おっさん、さっきレンガの投擲が掠めて、
銃身が凹んじまっただろ。
そいつのタバティエール銃と交換したらどうだ。
ヴェルサイユ軍兵士2そいつにはもう、銃は必要ねぇからな。
ヴェルサイユ軍兵士3…………。

年配の兵士は、銃を手にすると、
深くため息をつく。

ヴェルサイユ軍3フランスを守るための軍にいたはずなんだがな……。
市民の屍の山を築くことになろうとは……。

「血の一週間」と呼ばれるこの市街戦で、
3万人近くの市民が虐殺されたとされている。

最終的には、ヴェルサイユ軍による
一方的な殺戮と化した戦いに心底嫌気が差したのか……。

年配の兵士は戦後、
タバティエール銃を布に包み、倉庫の奥で眠らせたのだった。
「もう二度と銃は撃たない」と誓って。


タバティエール……戦場では、使えるものは何でも使って戦う。
その辺の石ころや石畳のレンガ、
家具や瓶、オイルも立派な武器だ。
タバティエールまして銃や弾薬なら、敵だろうが味方だろうが、
倒れた奴からどんどん奪って使う。
タバティエールそういう状況の中で、
俺はヴェルサイユ軍でもコミューン側でも使われたが……
シャスポーは、たまたまそうじゃなかった。
タバティエール……ただ、それだけの違いだ。
だが、シャスポーにとっては、
それがとてつもなく大きな違いなんだ……。
タバティエール過去は、どう頑張っても変えられない。
俺は、前線もあいつに任せちまったから……
せめて、少しでも気が晴れるようにしてやりたいんだ。
タバティエール……っと、すまねぇ。
話題がこれじゃあ、せっかくのケーキも楽しめないよな。
タバティエール紅茶のおかわりを淹れてくるよ。
じゃあな。

第6話:憧れと願い

恭遠よーし、みんな揃っているな。
今月の月間課題テーマは、『郷土の名産品』だ。
恭遠貴銃士の君たちは、国を代表する存在として、
公の場に出ることも多いだろう。
恭遠そういう時の話題としてもちょうどいいはずだから、
この期に改めて、ゆかりのある地域や興味がある地域の
名産品について、理解を深めてほしい。
恭遠各個で取り組んでもいいし、
グループで協力して取り組んでもいい。やり方は自由だ。
喧嘩くらいなら仕方ないが、乱闘は厳禁だぞ!

シャスポー名産品か……。
フランスは色々な分野で優れているから、何に着目するか迷うな。
タバティエール海外でも人気が高いのは、チーズやらワインかねぇ。
十手むむ……っ!
わいん、ってやつは、確か葡萄酒のことだったかな。
日本酒とは色からしてまったく違うし、興味深いよ。
十手各地の名酒を飲み比べて、感想をまとめる……
なんてのも面白そうだ。
ま、日本酒目当てにわざわざ日本に行くわけにもいかないんだが。
シャスポー……日本は遠いけど、フランスならいいんじゃないかい?
十手へっ?
シャスポーイギリスは曇りや雨が多くてじめじめしているから、
近頃いい加減うんざりしてたところだったんだ。
シャスポーうん、ちょうどいいよ。
前々から〇〇にフランスを案内したいと思ってたし、
課題のためなら名目も十分だろう。フランスに行こう!
タバティエールそれは……ありだな。
気になるワイナリーがあるから、
許可が取れたらそこに行ってみたいもんだ。
シャスポーよし、恭遠教官の許可を取り付けたら、
〇〇に予定を聞きにいこう。
タバティエール決まりだな!
十手ええっ、ちょ、2人とも……!?

───それから約1週間後。
タバティエール、シャスポー、十手、〇〇の4人は、
ワイナリーを目指し、フランス山間部の村への道を進んでいた。

十手ん〜! のどかなところだなぁ……。
空気が澄んでいて美味しいよ。
シャスポーおい、タバティエール。
本当にこの道で合ってるんだろうな?
ほとんど獣道じゃないか……!
タバティエール途中の村でも確認したし、
1本道だから間違いないはずだぜ。
タバティエールけど……悪いな、〇〇ちゃん。
君は学生だからワインは飲めないってのに、
休日返上で山歩きに付き合わせちまってさ。
主人公【こういう旅もいいと思う】
【冒険みたいで楽しい】
シャスポー君が楽しんでくれているならよかったけど……
パリの名所を案内できなかったのは少し残念だな。
次は、僕と一緒にパリの街を楽しもうね、〇〇。
十手……おおっ!
向こうに建物が見えてきたぞ……!
十手あれが、幻のわいんを作っているという、
ご夫婦の醸造所か……!

───タバティエールの情報によると、
この先にあるワイナリーでは、伝統的な作り方を守り、
ごく限られた量のワインを生産しているそうだ。

〇〇たちがワイナリーの扉を叩くと、
柔和な目をした老夫婦が4人を温かく出迎えた。

老婦人あらあら、士官学校からのお客さんね。
遠いところをはるばるようこそ。
老紳士若い人たちが興味を持って、
こんな山の中まで来てくれるとは、嬉しいもんだ。
何もない辺鄙なところですまないが、ゆっくりしていっておくれ。

一休みしたあと、老夫婦はさっそく、
4人にワイナリー案内をする。

老紳士そこの台は、収穫したぶどうの実を選別するためのものでね。
選果が終わったら実を潰して、この桶で発酵させるんだよ。
老婦人醸しがいい具合にできたら、絞って液体だけにするの。
それから、また発酵。
そのあと樽に移して、熟成させていくのよ。
十手んん……ぶどうのいい香りが漂っていて、
なんだか癒されるなぁ……。
シャスポー自然に、だけど綺麗に整ったぶどう畑の眺めも、
のどかで素敵ですね、ムッシュ、マダム。
十手ご夫妻は、もう長いことここに酒蔵を構えているのかい?
老婦人そうねぇ。
結婚した次の年に山裾の村から移ったから、もう随分になるわ。
老紳士気づけばあっという間の四十数年……。
すっかり老け込んでしまったよ。はっはっは。
タバティエール四十年以上、か……。
…………。
シャスポー……タバティエール?
なんだ、いきなり黙り込んで。
タバティエールいや……
なんだか、そういうのっていいもんだなぁと思ったのさ。
タバティエール大事な人とともに、ゆっくり時を重ねていくってのは、
どういう感じなんだろうな。
少し……憧れるよ。
シャスポー……何を、妙なことを言ってるんだ。
僕たち貴銃士は老いない。
人と同じ時は歩めないだろう。
タバティエールハハ、そうだよなぁ……。

ワイナリー見学のあと、〇〇たちは十手の提案で、
老夫婦の手伝いをすることになった。

タバティエール……おっと、ちょっと待ってくれ。
その桶は重そうだ。俺が運ぶよ。
老婦人あらまあ! 力持ちねぇ。
老紳士頼もしい助っ人だなぁ。
ずっといてほしいくらいだよ。
タバティエール……そういえば、後継ぎは見てないな。
ワイン造りは重労働も多いだろうに、
夫婦2人だけでやってるのか……?
老紳士私らは子宝に恵まれず仕舞いでねぇ。
まぁ、いたとしても跡を継いでくれるとは限らんが……。
老婦人もしも後継者がいてくれたなら、あなたくらい───
いいえ、もっと年がいっているでしょうけど、
よかったろうなと今になって思うこともあるのよ。
老婦人ふふ……。
もしも、だなんて、考えても仕方のないことなのにねぇ。
老紳士今日は、子供や孫がいるような気分を味わわせてもらったよ。
賑やかで楽しい時間だった。
……本当にありがとう。

ワイナリーでの手伝いのあと、
思い思いの時間を過ごしていると、
〇〇のもとヘタバティエールがやって来る。

タバティエール……〇〇ちゃん。
ちょっといいかい。
タバティエールあー……なんというか、貴銃士である俺が
こんなことを言うなんて変だとわかっちゃいるんだが……。
タバティエール俺は、今日ここで過ごしてみて、
妙にしっくりきたんだよ。
タバティエール穏やかで、平和で、でも満ち足りていて……。
俺の居場所は、こういうところなんじゃないかって感じるんだ。
タバティエール……前に、昔の話をしただろ?
俺がただの銃だった時───最後の持ち主は、
もう二度と銃は使いたくないと、強く思ってた。
タバティエールその願いのせいなのかはよくわからないが……
俺自身、もう、戦いたくない。
銃なんて、撃ちたくないんだよ。
タバティエール俺は……古い銃だし、絶対高貴にもなれない。
戦場に立つより、お菓子だとか料理だとかを作ってる方が、
ずっと人のためになってる気がする。
タバティエールこんな俺が、貴銃士である意味はあるのか?
タバティエール……それで、少し考えたんだが……。
タバティエール〇〇ちゃん。
俺……しばらくここに残りたいんだ。
タバティエールほら、力仕事は特に、助けがあった方がよさそうだろ?
それに───
シャスポータバティエール、お前……!
十手ちょっ、シャスポー君……!?
シャスポーここに残る? 戦いたくないだと?
何を腑抜けたこと言ってる。
シャスポーお前は貴銃士だ。
それも、僕と違って、ぬぐい切れない血も罪もないのに……!
シャスポー……くっ!
タバティエール……っ、シャスポー……!
十手タバティエール、〇〇君。
ここはひとつ、俺に任せてくれ!
十手おーい!
待ってくれ、シャスポー君!
タバティエール………………。

第7話:覚悟とあきらめの先に

───出ていったシャスポーを十手が追いかけていき、
その場にはタバティエールと〇〇が残された。

タバティエールやれやれ……今回は本気で怒らせちまったな。
いや、怒らせたっていうより、呆れられたって感じか。
主人公【きっと大丈夫】
【十手が上手く連れ戻してくれるはず】
タバティエールだといいんだが……。
タバティエール……なぁ、さっきの話、〇〇ちゃんはどう思う?
君にも呆れられちまったかな。
主人公【ちょっと悩む】
【どんな決断でも応援したいと思う】
タバティエール本当か……?
ありがとな、〇〇ちゃん。
その気持ちを、何より嬉しく思うぜ。
タバティエールあとは、シャスポーをどう説得するかだが……。
いやいや。
それ以前に、ワイナリーのオーナー夫妻に相談しないとだな。

その時、外から茂みが揺れる音や、
近づいてくる複数の足音が2人の耳に届いた。

タバティエール……おっ。
もうシャスポーたちが戻ってきたのか?
すごいな、十手は。シャスポーをこんな短時間で───

窓から外を見たタバティエールは、
焦りをあらわに叫んだ。

タバティエール伏せろっ!!

タバティエールが〇〇を庇いつつ床に伏せた瞬間、
無数の弾丸がワイナリーを襲った。

老婦人……っ、今の音は何……っ!?
タバティエール来るなっ! 窓から離れて伏せるんだ!
老紳士強盗かい……!?
でもまさか、こんな田舎に……。
主人公【襲撃犯は見えた?】
【敵の数は?】
タバティエール見えたのは一瞬だったが、強盗じゃない。
あの姿は、アウトレイジャーだ……っ!
3体はいたと思うけど、確信は持てない。
主人公【それだけわかれば十分!】
【応戦しよう】
タバティエールだが、どうするんだ、〇〇ちゃん。
俺たちだけじゃどうしようもない。
俺には……絶対高貴が使えないんだから。
タバティエール2人は、どこか安全なところに隠れていてくれ。
地下室……ワインセラーか貯蔵庫に!
老紳士あ、ああ……!

頷いた老夫婦が地下室へ向かおうとしたが───。

老紳士うわあぁぁっ!!!

ワイナリーが再び激しい攻撃にさらされて、
床に伏せたままなかなか動くことができない。

タバティエールくそっ! どうすりゃいい……!
単発式で絶対高貴もナシの俺じゃ、
敵を一瞬怯ませるくらいしかできない。
タバティエールそのあとハチの巣にされちまったら、
時間を稼げるとしてもほんの数秒だ……!
主人公【俺が応戦する】
【ハンドガンはある】
タバティエールやめろ、〇〇ちゃん! そんなの無茶だ!
あいつらには、普通の弾丸がろくに効かないってのに……!
主人公【少しでも長く時間を稼げればいい】
【十手とシャスポーがすぐに戻るはず】
タバティエールだが……!
老紳士ああ……私らのワインが……!
タバティエール……っ!

アウトレイジャーの攻撃で、
ワイナリーの至る所が無残に破壊され、
発酵途中のワインが血のように流れ出ていく。

タバティエール…………。
タバティエール……俺が行く。
主人公【待って!】
【タバティエール!】
タバティエール〇〇ちゃんはここにいてくれ。
マスターを守るのは貴銃士の役目だろ?
タバティエール俺は……人にはなれない。人と同じように、
穏やかに時を重ねて老いていくこともできない。
俺の……銃の居場所は、やっぱり戦場しかないんだ。
タバティエールだから、俺は戦うよ。
……戦うしか、ないんだ。

その時、タバティエールの身体が淡く光り始める。

タバティエールこの力は……。
タバティエールははっ……そうか。
俺に必要だったのは、
この諦めと覚悟だったってわけか……。
タバティエール───絶対高貴……!
アウトレイジャーたち壊、ス……殺ス……!
タバティエール心銃っ!
アウトレイジャーたちギャァアアア……!!
タバティエール…………。
シャスポー───〇〇ー! タバティエール!!
十手みんな、無事か!?
ああ、よかった……ご夫妻も大きな怪我はないみたいだね。
十手一体何があったんだい?
ここまでの被害……まさか、アウトレイジャーか……!?
シャスポータバティエール……お前が倒したんだな。
……絶対高貴になれたのか。
タバティエール……ああ。
シャスポーそうか……。

───翌日の午後。
被害を受けたワイナリーの片付けや簡易な修繕をあらかた済ませ、
〇〇たちは出立の時間を迎えた。

シャスポーここの被害については、連合軍フランス支部に報告済みです。
何かしらの支援があるはずですよ。
それに、また奴らが現れた時に備えて派兵されますからね。
老紳士ありがとう……心強いよ。
十手まっこと、お世話になりました!
ワイン造りについて見て、食べて、飲んで、学べて、
本当にいい経験になったよ。
老夫婦こちらこそ、素晴らしい思い出になったわ。
また遊びに来てちょうだいね。
十手ああ! 必ず!
タバティエールあの襲撃はもしかすると、俺たちが来たことも何か影響して……。
本当に……申し訳なかった。
老婦人あなたが謝る必要なんてないのよ。
あなたは、私たちを守ってくれたじゃない。
あの時……あなたが立ち向かわなければ、私たちは死んでいたわ。
老紳士ワインも……発酵中だったものは駄目になってしまったが、
地下室はほとんど無事さ。
老紳士熟成中のものはみんな残ってる。
ここから、また2人で立て直してみせるよ。
本当に、ありがとう。
老婦人また、あなたたちに会えると嬉しいわ。
〇〇さんがお酒を飲めるようになる時までは……
私たちも、まだまだ頑張るからね。
主人公【2人のワインを飲める日が楽しみです】
【どうかお元気で】

老夫婦と別れ、
一同はフィルクレヴァート士官学校への帰路についた。


タバティエール……よっ、〇〇ちゃん。
タバティエール……これまで、悪かったな。
色々迷惑をかけちまって。
タバティエール随分と遠回りをしたが、やっとわかった。
俺は……どこまでいっても銃なんだってさ。
タバティエール穏やかな時の中に身を置くんじゃなくて、
人の穏やかな時を守るために、俺は戦場に立つよ。
タバティエール……それが、銃である俺の使命だからな。

第8話:繋ぎとめるもの

───タバティエールたちがワイナリーから戻って
しばらく経った、とある休日のこと。

主人公【タバティエール】
【部屋にいる?】
タバティエール……開いてるぜ。
タバティエールん……? ああ、〇〇ちゃんか。
どうしたんだい?
主人公【最近料理をしてないのが気になって】
【元気がないような気がして】
タバティエールそう見えるかい?
だとしたら、心配かけてすまないな。
タバティエールただ、俺は大丈夫だぜ。
ちょっとのんびりしたい気分なんだよ。
タバティエールなんだなんだ? また誰か来たのか?
開いているぞー。
シャスポーおい、なんで厨房にいないんだ。
お腹が空いた。
バベットステーキが食べたい。
グラースはぁ?
ヒラメのムニエルの方が先だっての!
タバティエールはぁ……へいへい。
グラースなんだよ、そのやる気のない返事は。
ついこの間まで、貴銃士をやめて料理人になるのかってくらい
手の込んだ料理やら菓子やらを作りまくってたくせに。
シャスポーまさか、もう飽きたのか?
士官学校の生徒からもヒンシュクを買うぞ。
タバティエールわかったわかった。ステーキとムニエルな。
作ってやるから待ってろ。
シャスポー当たり前だ。
ほら、厨房に行くぞ!
グラース〇〇も来いよ。
お前もタバティエールの料理が食いたいんじゃねーの?
我慢なんざ、するもんじゃないぜ。

タバティエールはい、お待たせ。
バベットステーキとシタビラメのムニエル。
それと〇〇ちゃんにはポルチーニ茸のリゾットだ。
主人公【いい香り……!】
【美味しそう!】
タバティエールBon appétit!
グラースんん……美味い。
腕は落ちてなかったらしいな。
シャスポー……やっと調子が出てきたみたいじゃないか。
タバティエールああ……そうだな。
なんだか、料理を作ってるうちに気分がすっきりしてきた。
シャスポーお前はこうして、動き回ってる方がいいんだから。
部屋に閉じこもったり、妙に静かにしてたり……。
そんなのはやめろ。いいな?
タバティエールシャスポー……。
タバティエールへへ……。ありがとな。

───ある日の任務後。

ラッセル〇〇君。
今日の任務は滞りなく済んだかい?
主人公【問題ありませんでした】
【はい、あとで報告書を提出します】
ラッセルそれは何よりだ。
タバティエールも同行すると聞いて、
実は少し心配していたんだ。でも、杞憂だったな。
ラッセル……彼は、任務に出たがらないと聞いていたが、
絶対高貴にも目覚めたし、近頃は任務への参加も多い。
この変化は、〇〇君のお陰かな。
ラッセルこれからの君の活躍も、期待しているよ。

───数日後。
任務で帰りが夜遅くになったときのこと。

グラースこんな時間まで任務だったのか。
よく働くもんだなぁ、〇〇もタバティエールも。
タバティエールお疲れさん、〇〇ちゃん。
主人公【タバティエールもお疲れ様】
【今日の任務もありがとう】
タバティエールああ……。おやすみ。

シャワーを浴びて、
何か飲もうとキッチンへ向かったエーデルは、
料理をしているタバティエールと遭遇した。

主人公【休まないの?】
【作戦後で疲れているはずじゃ……?】
タバティエールははっ、大丈夫だ。
さすがに料理のし過ぎで倒れたりはしないぜ。
タバティエール…………。
タバティエール……料理をしてないと、どうにも落ち着かないんだ。
タバティエール料理を作らなくなったら……
俺は、ただの武器になっちまう気がして……。
タバティエール……悪い。妙なこと言っちまったな。
今のは忘れてくれ。
タバティエール早く寝ろよ、〇〇ちゃん。

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